改ページ サンプル(夢十夜 第四夜)

やがて爺さんは笛をぴたりとやめた。そうして、肩に掛けた箱の口を開けて、手拭の首を、ちょいと撮つまんで、ぽっと放ほうり込こんだ。
「こうしておくと、箱の中で蛇へびになる。今に見せてやる。今に見せてやる」と云いながら、爺さんが真直に歩き出した。柳の下を抜けて、細い路を真直に下りて行った。自分は蛇が見たいから、細い道をどこまでも追ついて行った。爺さんは時々「今になる」と云ったり、「蛇になる」と云ったりして歩いて行く。しまいには、

「今になる、蛇になる、
きっとなる、笛が鳴る、」

と唄うたいながら、とうとう河の岸へ出た。橋も舟もないから、ここで休んで箱の中の蛇を見せるだろうと思っていると、爺さんはざぶざぶ河の中へ這入はいり出した。始めは膝ひざくらいの深さであったが、だんだん腰から、胸の方まで水に浸つかって見えなくなる。それでも爺さんは

「深くなる、夜になる、
真直になる」

と唄いながら、どこまでも真直に歩いて行った。そうして髯ひげも顔も頭も頭巾ずきんもまるで見えなくなってしまった。

自分は爺さんが向岸むこうぎしへ上がった時に、蛇を見せるだろうと思って、蘆あしの鳴る所に立って、たった一人いつまでも待っていた。けれども爺さんは、とうとう上がって来なかった。

タイトルとURLをコピーしました